ブラック・スワン/ダーレンアロノフスキー

ダーレンアロノフスキ−の最高傑作!


「π」で世界的に有名になったダーレンアロノフスキ−監督ですが、「π」が好きかどうかと聞かれると、個人的にはあまり好みではないです。円周率の秘密にたどり着くという設定はとても面白いですが、なんというか作品の世界に入り込めない、共感するのが難しい。


でもこの人が本質的にやりたい事は「π」で描かれていたのような、人間の不安や、精神の歪みを描きたいんだと思います。その証拠に、ダーレンアロノフスキ−監督は同じようなテーマで何本か映画を撮っています。僕の中では彼の位置づけは、やりたい事はわかるんだけどちょっと肌に合わない映画監督でした、「レスラー」を観るまでは。


おそらく、彼の中でキャリアの分岐点となったであろう作品「レスラー」。
キャリア晩年のレスラーが自分の居場所を求めて、リングの上で危険な試合を繰り返す話で、これもまた、心の不安をテーマにしています。ただし、これまでの作品とは決定的に違うのは、不安が客観的に描かれている点にあります。一人の中年男性が不器用に生きている様子がリアルに描かれ、その世知辛さは共感を禁じ得ません。
「レスラー」はタフな毎日を何とか生きているオレたちの映画!こちらもおすすめです。

レスラー スペシャル・エディション [DVD]

レスラー スペシャル・エディション [DVD]


ブラックスワン」のストーリーを一言で紹介すると、バレエ「白鳥の湖」の主役に抜擢されたバレリーナがプレッシャーにより精神を壊していく話です。ダーレンアロノフスキー本来のテーマに近い作品ですが、彼の他の作品と違うのは、「レスラー」で培った鑑賞者を共感させる人物描写を取り入れている点にあります。
白鳥の湖」を主演する事になったニナ(ナタリー・ポートマン)は清楚な表現と官能的な表現を演じ分ける事を舞台監督から求められ、苦悩します。彼女には「官能的」とはどういう事か分からなかったからです。なぜ彼女には分からないか、彼女の周囲の環境を客観的に描く事で、彼女の悩み、そして思い詰めていく過程に迫ります。


芸術とは虚実皮膜である事を捉えた傑作。お芝居はあくまで虚構のものだけど、それを演じているのは血が通っている現実の身体なのです。