Before Sunset/リチャード・リンクレイター

ビフォア・サンセット [DVD]

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人間、三十歳あたりになってくると、「あの時こうしていたら・・・、」とか「もっとこうしていれば・・・」という所謂、タラレバの思い出が一つや二つくらいあるんじゃないかと思います。そして、往々にしてタラレバは恋愛絡みの話に多い。


■大人の映画と評される所以
本作は、前作Before Sunsetから9年後のパリが舞台となっています。30代前半になったジェシーイーサン・ホーク)とセリーヌジュリー・デルピー)が偶然再会する所から物語は始まります。作品は前作と同様、ほぼ二人だけの会話で成り立っているのですが、二人が紡ぎだす会話は、抽象的・哲学的な会話で恋が始まる瞬間の煌きを捉えた前作とは異なり、殆どお互いの現在の生活に対する不満を話しているだけです。


本作の重要なポイントは、全ての会話は9年前の素敵な出来事を踏まえた上でのお話だという事です。つまり、お互いの現在の生活に対する不満を話す事で、9年前ああしていれば、今こんな事にはならなかったのに・・・、という盛大なタラレバ大会を繰り広げているのです。二人は再会できたんだし、止まってしまった二人の時間をさっさと推し進める事だってできたと思います。でもそんな野暮な事はしません。本作がamazonのレビュー等で大人の映画、と評される事は多いですが、その所以はこの点にあります。


つまり、大人の映画とは結論では無く、過程を楽しむ余裕を描いた作品だと僕は思います。大人にはタラレバを楽しめる余裕があるのです。


「過程を楽しむ余裕」という視点で観ると、本作のラストシーンにも納得できるんじゃないかと思います。最後の最後までタラレバで引っ張る、まさしく大人の映画です。